駄菓子メーカー列伝|あの味をつくった会社たち
うまい棒からクッピーラムネ、ねるねるねるねまで。あの懐かしい味を生み出した駄菓子メーカーたちを、それぞれの個性とともにめぐる読みもの。
駄菓子屋の棚を思い出してみてほしい。10円玉を握りしめて選んだあの一袋、あの一粒には、必ずそれをつくった「会社」がいる。普段は名前を意識しないけれど、ひとつひとつの味の裏には、何十年も同じ菓子をつくり続けてきた職人たちの仕事がある。この記事では、わたしたちの記憶に残る味を生み出してきた駄菓子メーカーたちを、敬意と親しみをこめてめぐってみたい。
世紀をまたいで味を守る、老舗たち
駄菓子の世界には、創業から100年前後を数える長寿のメーカーが少なくない。たとえばカクダイ製菓は1919年の創業。魚のイラストでおなじみの「クッピーラムネ」を作る名古屋の製菓メーカーとして、長く親しまれてきた。あの素朴な甘さとパステルカラーは、世代を越えて子どもたちの手に届いている。
飴の世界で歴史を重ねてきたのがカンロだ。1912年創業のこのメーカーは、「カンロ飴」「ピュレグミ」で知られる飴・グミの専門メーカーとして、甘さの定番をつくり続けている。山形からはでん六。1924年に生まれ、創業者の名を冠した「でん六豆」で知られる豆菓子メーカーとして、東北の食文化に根ざしている。長野の天恵製菓(1923年創業)は、和洋菓子を手がけながら、ほかのブランドが販売する駄菓子の製造元としても支えてきた一社。動物型ビスケットといえばギンビス。1930年創業、「たべっ子どうぶつ」で知られる東京の老舗菓子メーカーだ。米菓の世界では大阪のぼんちが1931年から「ぼんち揚」「ポンスケ」を世に送り出している。
ひとつの名物に人生を懸ける、専業の矜持
駄菓子メーカーの面白さは、たったひとつの看板商品を、ひたすら磨き続ける姿勢にある。エイワは1957年の創業以来、マシュマロ一筋。「いちごマシュマロ」で親しまれてきた老舗だ。ふんわりとした口どけの裏に、ひとつの素材を究めた職人気質がある。
笛として鳴らせる駄菓子で記憶に残るのが大阪のコリス(1948年創業)。フエラムネ・フエガムは、食べる前に思わずピーッと鳴らした人も多いはず。同じく1948年創業のサクマ製菓は、緑缶のサクマドロップスで知られる目黒のキャンディメーカー。缶を振ったときのあの音まで含めて、ひとつの体験だった。
ビスケット専業として歩むのがイトウ製菓。「カルケット」を受け継ぐ「ミスターイトウ」のブランドで、ビスケットづくりに専念してきた。長野・須坂のアトリオン製菓は、ヨーグレットやハイレモンを長年作り続けてきた一社。あのタブレットの甘酸っぱさは、変わらぬ味として残っている。そして奈良のイコマ製菓本舗は、抽選販売になるほど人気の「レインボーラムネ」を作る製菓所。手に入りにくいからこそ、味わえたときの喜びは格別だ。
珍味系という、駄菓子の塩っ気
甘いものばかりが駄菓子ではない。しょっぱくて、ちょっとクセになる珍味系の存在が、棚に奥行きを与えてきた。山梨のよっちゃん食品工業は1959年創業、「よっちゃんイカ」で知られる海産物加工メーカー。あの酸っぱさは、駄菓子屋の記憶と分かちがたく結びついている。
呉のすぐる食品(1973年創業)は、魚のすり身をカツに見立てた「ビッグカツ」で知られる珍味・駄菓子メーカー。揚げ物のような満足感を一枚で味わえる発想がユニークだ。「太郎」シリーズで知られる菓道(1977年創業)も、珍味系駄菓子の作り手として外せない。おつまみ・珍味の分野では東京・北区のなとり(1937年創業)が、チーズ鱈などで大人にも子どもにも親しまれてきた。
「うまい棒」と太郎シリーズ、その役割分担
駄菓子の代名詞ともいえる「うまい棒」。これを世に送り出してきたのがやおきんだ。1960年創業のこの会社は、うまい棒や太郎シリーズを世に送り出す販売会社として、駄菓子文化の中心にいる。そして、その「うまい棒」を製造しているのが茨城のスナック菓子メーカーリスカ(1971年創業)。つくる会社と届ける会社、それぞれの役割が組み合わさって、あの一本がわたしたちの手に届いている。駄菓子の世界には、こうした分業の妙がしばしば見られる。
飴・グミ・スナック、味の大手たち
大阪のUHA味覚糖は1949年創業。純露やシゲキックス、コロロを生んだ飴・グミメーカーとして、甘さと酸っぱさの幅広い世界を築いてきた。同じく大阪のオリオン(1948年創業)は、ココアシガレットやミニコーラで知られる駄菓子メーカー。ちょっと背伸びした気分にさせてくれるあの形は、駄菓子屋の名脇役だった。甘酸っぱさといえば、大阪のサンヨー製菓(1959年創業)が作る「モロッコフルーツヨーグル」も忘れがたい。
スナックの分野ではカルビー。1949年創業で、「カルシウム+ビタミンB1」を社名に込めたという由来を持つ大手メーカーだ。三重発のおやつカンパニー(1948年創業)は、ベビースターラーメンを生んだスナックメーカー。袋を開けた瞬間のあの香ばしさは、何度味わっても新鮮だ。岡山発のカバヤ食品(1946年創業)は、「カバ」を社名に掲げた菓子メーカーとして親しまれてきた。
そして、作って楽しむ知育菓子という新しいジャンルを切り拓いたのがクラシエ。1979年に生まれた「ねるねるねるね」を展開し、混ぜて色が変わる驚きで、駄菓子を「体験」へと広げてみせた。
味の向こうに、つくり手がいる
こうして並べてみると、駄菓子の棚は、それぞれに個性を持った会社たちの集合だったとわかる。100年近く同じ味を守る老舗、ひとつの名物に懸ける専業メーカー、しょっぱさで彩りを添える珍味の作り手、そして遊び心を菓子に持ち込んだ挑戦者たち。次に駄菓子を手に取るとき、袋の裏の社名をそっと確かめてみてほしい。あの懐かしい味の向こうには、いつも、それをつくった人たちがいる。